下川町地域共育ビジョン-子どもが誰ひとり取り残されず、全体が大きな家のような教育のまち-


インタビュー

地域共育に関わる多様な取り組みを
インタビュー形式で紹介します。

人口減少社会で自分は何ができるだろう
「第一回 しもかわ地域共育フォーラム 2024」開催レポート

2019年、学校・家庭・地域から集まった委員16人によって一年かけ策定された「下川町地域共育ビジョン」。ビジョン策定後も、ゴールを共有しながら学校と地域が連携し、子どもたちを育む環境づくりを進めてきました。

ビジョン策定に向けた話し合いの様子

2024年は、目標の2030年まで、ちょうど中間地点です。これまでの取組みを振り返り、現状や課題を共有しながら、世代や立場を超えて子どもたちの未来を育むさらなるアクションに踏み出すため、第一回となる「しもかわ地域共育フォーラム 2024」が開催されることになりました。

今回のフォーラムのテーマは「小規模自治体から創り出す“地域共育”の未来」です。

2月12日(月)の開催日当日、祝日にも関わらず会場には10代から80代までの住民、そして町外から下川町を応援・注目している方々も駆けつけ、定員をはるかに超える約80名が集まりました。

「2030年に向けた地域共育のビジョンとアプローチ」と題したパネルディスカッションを中心に、当日の様子をご紹介します。

第一回 しもかわ地域共育フォーラム 2024

当日の内容
  • 基調講演「小規模自治体だからこそできる 地域共育の意義と未来」文部科学省 初等中等教育局 教育課程課 教科調査官 長田徹氏
  • 事例紹介
    • 「地域共育ビジョンに基づく下川の取組み」下川町教育委員会 教育長 川島政吉氏
    • 「地域・小中高が連携した総合、教科の取組み」下川町立下川中学校 校長 桑内寿則氏
    • 「『好き・得意』をいかし地域で探究する課題研究」北海道立下川商業高等学校 地域学校協働コーディネーター 本間莉恵氏、北海道立下川商業高等学校3年 佐藤優花氏
    • 「地域資源をいかした学びと遊び 森林環境教育・キッズスクール」NPO法人森の生活 代表 麻生翼氏
  • パネルディスカッション「2030年に向けた地域共育のビジョンとアプローチ」
    • 文部科学省 初等中等教育局 教育課程課 教科調査官 長田徹氏
    • 北海道教育長学校教育局 局長 川端香代子氏
    • 下川町長 田村泰司氏
    • 進行:下川町教育委員会 教育長 川島政吉氏
  • ワークショップ「2030年に向けた、地域共育アクション」
    • ゲストや町内・町外の参加者の方々を交えて興味のある話題やテーマについて考えを共有・対話

人口が減り続ける地域。これからの共育とは

川島政吉教育長

基調講演と事例紹介の後、下川町教育委員会の川島政吉教育長の進行で、パネルディスカッションが行われました。

「全国的に子どもの数が減少し、それに伴って学校も先生も減り、関わる人も減っていく中で、これまでと同じような教育活動の維持は困難です。今後、私達はどのような体制で何を大切にしていくべきかを、皆さんと一緒に考えたい。そう思い、この場を設けさせていただきました」

川島教育長からの導入後、登壇者3名からそれぞれの立場だからこそ見えることや知見、下川町での事例を踏まえて今後につながるご意見を共有いただきました。

大人の思いが、子どもを通じて将来の社会や地域づくりにつながっていく

文部科学省 初等中等教育局 教育課程課 教科調査官 長田徹氏

私が大学卒業後に、はじめて中学教師として勤務したのは、東北のとある町でした。

その中学校で当時行われていたクラブ活動では、地域の人たちが先生でした。私は養殖クラブの顧問になりました。ホタテや牡蠣、ホヤを養殖するクラブ活動です。顧問は私ですが、当然、養殖の指導はできません。地域の漁師が先生でした。伝統芸能や伝統工芸など他のクラブ活動も、地域住民が指導者でした。

2011年3月11日の東日本大震災で、この町は大きな被害を受けます。町の人口や生徒数は激減、全国に散々となりました。しかし「こんな時だからこそ」と地元の中学生は考えました。津波で流されてきた古タイヤを集め、100 円ショップで麺棒を買い、伝統芸能の太鼓の練習を始めました。これが、いつの間にかメディアで報道されるようになると、全国に避難していた地域住民から「元気が出た、ありがとう。俺らも必ず戻るから」と連絡が来たそうです。

子どもたちは、地域の方から力を借りたことを覚えています。そして、何倍にもして返すのです。赴任当時、私は「子どもたちが地域の方に支えてもらっている」と思っていましたが、違いました。どちらも支え合っていたのです。

もう一つ、地域と子どもたちとの関わりにつながるエピソードをご紹介します。

東日本大震災で被災した高校生が、地域の人たちを元気づけようと高校生カフェを運営するボランティアを始めました。カフェの店名は「 」(かぎかっこ)と言います。高校生のプレゼンにより店名は決まりました。自分の両手でかぎかっこを作れば必ず片方の手が反転します。反転しない状態では、どうしてもかぎかっこは作れないのです。しかし、隣の人の手を借りた瞬間、反転しないかぎかっこができるという意味なのです。どうしても一人ではできないことが、誰かと力を合わせることでできるようになるということです。この話は、高校生が過去お世話になった地域の方の口癖だったそうです。

大人の思いが、子どもを通じて将来の社会や地域づくりにつながっていく、そう実感できるエピソードでした。

下川町でも、この会場にいる皆さんをはじめ、大変多くの方々が子どもたちと関わってくださっていると思います。共育にかかわる大人がたくさんいる地域は、決して多くはありません。人口や子どもたちの数が減っていくことに対して、大人も不安ですが、子どもたちの方がもっと大きな不安を抱えていると思います。

ぜひ、これからも子どもたちに積極的に関わり、大人の思いを伝えていただければと思います。

大人も子どももゴールを共有し、協働を

私は現在、義務教育を担当していて、幼小中高学校間の連携やキャリア教育、総合的な学習の時間、教員の研修や部活動の地域移行などに取り組んでいます。私からは北海道全体の状況と、その中で下川町だからできることをお話させていただければと思います。

改めて北海道の子どもの数を見ていきますと、令和4年までの30年間で小学生が1万4766人、中学生が5,509人、小学校は65校、中学校が9校減少しています。北海道には179の市町村がありますが、下川町のように小中学校が1校ずつという市町村数は50箇所です。一方、複式学級を有する学校は増えているのが現状です。

少子化に関しては、どうしてもネガティブな部分に言及されがちです。しかし今日は現状だからできることに焦点を絞り、地域の強みをどう生かすかということと、学校間での連携の2つについて、お話させていただきます。

北海道教育長学校教育局 局長 川端香代子氏

国では地域学校協働活動と定められているものを、北海道では、地域と学校が繋がり、会話をし、関わり合いを深めていく取組を地学協働と呼んでいます。

本日の会場に、今までの取り組みに関する掲示物がいくつか展示されていますが、その中に「そもそもまちづくりとは」「誰1人取り残さないとはどういうことなのか」という質問を子どもたちがインタビューした内容があります。本気で何かの目標達成に向けて進むとき、こういう視点を持つことは、とても大事です。

また、森林環境教育も素晴らしい取り組みだと思います。「何をするか」より、他の学習──例えば理科や社会などと森林環境教育がしっかり繋がる内容になっていますよね。先生方が、森林環境教育の学習の流れを幼小中高で一貫して見れるようになっている仕組みも、素晴らしいと思います。学校間の連携としても、町内では中学1年生が高校3年生の発表を聞く時間があると聞きました。大人たちだけではなく、子どもたち自身が、今やっていることが将来どういう目標とつながっているのか体感できる良い取り組みだと思います。

参考:15年一貫の森林環境教育がもたらす子どもと大人の変化とは

また、地域共育ビジョンの要点を、子どもたちの成長年代に沿ってまとめた「地域共育ストーリー」も、ゴールを共有するのにとても役立つと思います。ただ、常に子どもたちの様子や成長に意識を向け、大人たちがどういう環境を作っていけるのか、つどつど話し合う必要が出てくるとも思います。

下川町ではボランティアで地域共育に関わっている方が多くいらっしゃると聞きました。子どもたちとかかわることで、パワーをもらえる方も多いのではないでしょうか。大人たちの表情を、子どもたちもよく見ています。ぜひ、幅広い地域の方々と膝を突き合わせながら子どもたちとも向き合っていただきたいと感じます。

かっこよくない姿も見せる

田村泰司下川町長

これまでも、町の未来や政策を議論する場で、子どもたちの教育環境への不安は意見として上がっていました。第6期下川町総合計画では、町民が主体となり「誰ひとり取り残されず、しなやかに強く、幸せに暮らせる持続可能なまち」という将来像を定めました。また、SDGsの17のゴールを下川版SDGsの7つのゴールの一つとして「子どもたちの笑顔と未来世代の幸せを育むまち」を設定しました。

参考:2030年における下川町のありたい姿 ~人と自然を未来へ繋ぐ「しもかわチャレンジ」~

下川町は、町の消滅危機を町民が一つになって乗り越えてきた歴史もあり、新しいことに挑戦する人、挑戦する人を応援する人、移住者を受け入れる寛容性のある町民がたくさんいます。町長に就任1年目で、まだ新人であり、共育に関して勉強中でありますが、地域の多くの皆様のご協力をいただいていると日頃から感じており、感謝しております。

実は、昨年(2023年)の冬に議場で中学生と高校生とお話する機会をいただきました。ただでさえ議場は緊張する場ですが、子どもたちと対峙するとなると、ますます襟を正す思いでした。子どもたちが一生懸命考えて質問してくれたので、できる限り丁寧にお話させていただきました。

小学生も含めて彼らは、10年後には社会の一員です。基調講演で長田調査官からのお話にもありましたが、格好いい姿ばかり見せるのではなく、時には格好よくなくても一生懸命、真剣に頑張る大人の姿を見せたいと強く思いました。

今日までピンチをチャンスに、マイナスをプラスに変えてきた下川町です。人口減少、担い手不足は地域の大きな課題ですので、子どもたちに将来、地域の担い手になっていただきたいのが正直な思いです。下川を離れても、ずっと下川のことを想っていただき、関係人口として関わりを持っていただきたい。私自身も子どもたちや地域の皆様から学び、共育の面からまちづくりを進めていく町民の皆様のご意見をいただきながら、引き続き取り組んでいきたいと思っています。

ワークショップでそれぞれの意見や感想をシェア

基調講演や事例紹介、そして3名の方々のお話を踏まえ、最後にグループで気づいたことや考えたことをシェアします。

フォーラム全体の感想を含め、地域共育ビジョンを中心に自分たちに何ができそうかアイディアを書き出していく

「下川町の特産品をメディアやイベントに取り上げてもらい、多くの人に知ってもらうことが、地域に住む子どもたちの地元愛にもつながるのでは」

「人口の少ない地域だからこそ大人と子どもの距離を縮めるチャンスがある」

「子どもの姿を見たり声を聞いたりするだけで、楽しい気分になるという意見が出た。高齢者と子どもが関われる場があると、お互いに良い刺激になるのでは」

「学校の先生もよその地域から移住してきた人が多い。子どもたちだけでなく、先生も地域のことを知ることが大事」などの意見が聞かれました。

どのグループも熱気を帯び、話が尽きない様子でした。

地域と学校と家庭。密接に繋がりつつも、明確な役割分担は人それぞれの解釈があります。それぞれの強みも一概には言えません。

子どもたちにかかわることは、子どもがいるかいないかに関わらず、その土地で暮らすすべての人にかかわること。多くの方々が自分ごとで共育について意見や思いを交わせる、貴重な機会となりました。