下川町地域共育ビジョン-子どもが誰ひとり取り残されず、全体が大きな家のような教育のまち-


インタビュー

地域共育に関わる多様な取り組みを
インタビュー形式で紹介します。

いかに地域の真ん中に子どもを置いて対話ができるか。第2回「しもかわ地域共育フォーラム2026」で考える

下川町では、2020年から地域共育ビジョンを掲げ、何度も地域住民と学校関係者が、よりよい共育とは何か、実際に取り組めることは何か、議論を重ねてきました。

2026年2月21日に開催された、第2回「しもかわ地域共育フォーラム2026」では町内外から参加者が集まり、関係者も含め57名が参加。2025年からは小中学校が施設分離型の小中一貫校になり、新たな視点や具体例も生まれ、次なる段階に一歩踏み出した下川町の地域共育。さまざまな立場の住民が集まった会場でどのような議論が交わされたのか、当日の講演やポスターセッションの様子を交えながら、お届けします。

・第一回目の様子はこちら:人口減少社会で自分は何ができるだろう 「第一回 しもかわ地域共育フォーラム 2024」開催レポート

安平町の早来学園から紐解く’学ばさる’環境づくりとは

フォーラムのはじめに、講師として北海道安平町の教育委員会教育長の井内聖さんをゲストに迎え、「こどもが『育つ』まちづくり」と題した基調講演を行なっていただきました。井内さんが以前園長を務めていた私立の子ども園の事例をを交えながら、どのように地域と学校が協働してきたのかを紹介してくださいました。

井内聖教育長
井内聖教育長

2018年9月に起こった北海道胆振東部地震で被災した安平町の早来(はやきた)中学校は、小中一貫義務教育学校・早来学園として2023年に生まれ変わりました。この早来学園の基本構想づくりを進めるメンバーの一人だった井内さん。校舎の一部は地域住民も自由に利用できる早来学園。そのアイディアの背景には、建築物だけで「地域と学校が一体に」を形するのではなく、関係作りに対する丁寧な配慮が基盤になっていました。

「地域と学校で、一つの目標を設定し、一緒に子どもを育てましょうというのは、なかなかハードル高いです。地域の中には教育に興味がある人もいれば、そうでない人もいる。興味関心がバラバラです。ですから、目標ではなく活動場所を同じにしました。どういうことかというと、例えば安平町の早来学園には、地域の人も自分の趣味や勉強のために使える共有スペースがあります。だから学校に集う地域の大人の目的は、それぞれバラバラなんです。でも同じ場所に集まれる仕掛けを作ることで、自然とコラボレーションが生まれていく。それが結果的にまちづくりにも繋がっていくし、それは子どもたちと地域の関わり合いでも言えることです。ちょっとした興味から生まれた遊びが結果的に学びになったり、挑戦したいという気持ちに繋がったりする。北海道弁で言うと、学ばさる状態が理想だと僕たちは考えています」

下川町教育委員会

早来学園の図書館の様子(写真提供:早来学園)

下川町教育委員会

続いて、町内の事例を共有する時間として、6つのポスター掲示がされました。中学校3年生の美術の時間で作成した下川の手延べうどんのオリジナルパッケージ、同じく中学3年生の総合の時間のまちづくり学習に関する発表、NPO法人森の生活による幼少中高一貫の森林環境教育、下川商業高校3年生の課題研究、下川小学校6年生とSDGs推進町民会議によるまちづくり提言、そして小学4〜6年生に向けて行われているクラブ活動について、それぞれの取り組みが紹介されました。参加者は興味のあるポスターを熟読したり、一部のポスターの詳細を説明する発表者の話に聞き入ったりしていました。

下川町教育委員会

下川町教育委員会

下川町教育委員会

下川町教育委員会

未来に紡ぐ自分らしさを創造する

下川町教育委員会
麻生翼さん

次に、下川町教育委員会の古屋宏彦教育長の進行で、新たな教育目標に関する説明と共有を行いました。本来、各学校が設定する教育目標ですが、2025年から小中一貫校になったことで、9年間というスパンで捉えた地域共育を各校の教育課程に反映できるよう、新たな目標を設定することに(*1)。

自分自身が子どもだった頃から大きく変わり、子どもたちの減少とともにそれぞれの個性や想いを大人がどう受け取れるか、より重要になってきた、と古屋教育長は説明しました。

「今回の小中一貫の教育目標を決めるにあたり、子どもたちとの対話も含め、地域のたくさんの方々の意見をいただきました。その中で、自分で考える力を身につけることの重要性に着目している方が多かったんです。子どもたちにはそれぞれの個性がありますが、それらを大人がどう支えていけるか、また本人たちがどうやって自分らしさを認識し、将来やりたいことなどに繋げていけるかが大切だと考えました。その結果、未来に紡ぐ自分らしさの創造という目標をご提案するに至りました」

(*1) 子どもたちとともに考える、小中一貫の教育目標ができるまで

また、教育目標の設定にあたりどういうプロセスを経たのか、地域側の意見をまとめる会議体・学校運営協議会会長の麻生翼さんから改めて説明がなされました。

「子どもたちにとって重要な力は何かを学校運営協議会で話し合い、出てきたのが、自己決定力でした。自ら考えを持ち、自ら決めてやり遂げる力を指しますが、自己決定が目的化してはならず、身に付く過程が大切なんじゃないかと私たちは考えました。この背景には、さまざまな議論からキーワードを抽出して、やらされ感からの脱却が大事なのでは、と話をしたところにあります。また、自己決定力を養うために、大人側は子どもたちに委ねることも重要だと考えています。

二つ目の力は、具体的な知識や技能にあたる能力です。ただスキルそのものよりは、なぜそのスキルを身に付けたいのか、動機づけと目的意識が重要。子どもたちが主体的に自分の興味のあることや体得したい技術を見つけ、自ら磨いていくには、大人側は子ども一人ひとりの興味関心に耳を傾け、子どもたちの個性や学習の進捗状況に応じてサポートする必要があると思います。

そして三つ目は、関係性を構築する力です。中学生との対話の中で、自分らしさや個性は大事だけど、相手との関わりの中で見えてくるものだよねという発言やコミュニケーションという言葉が、非常によく出てきました。大人と子どもの関係性を考える上でも、大人がまるで全てを知っている存在のように振る舞い、上下関係ができてしまうことがありますが、そういう関係性から大人自身の在り方も変化すべきだと思い、着目したい要素として、関係性を挙げています。

まとめると、自己決定をベースに他者との関わりによって成長したり、あるいは自分でやり遂げたいと思ったことを実現していく調整力、そのために必要な知識や技術を、誰からにやらされるのではなく、自分の内側からこみ上げてくるものによって突き動かされて習得していく。さらに地域は、子どもたちの学びや挑戦を支え受け入れる場であるべきで、だからこそ子どもたちも成功体験や達成感を覚え、さらに新しいことに関心を持ったり挑戦したりしていく。下川町が、こうしたサイクルが回っていく地域になったらと思っています」

下川町教育委員会

こどもの育ちを真ん中に大人が協働するために大切なこと

下川町教育委員会
左から古屋教育長、井内教育長、田村町長、麻生会長、黒井アドバイザー

フォーラムの最後は井内教育長と麻生会長に加え、田村泰司町長と、産官学連携団体「一般財団法人Nスポーツコミッションなよろ」アドバイザーであり、名寄高校学校運営協議会コーディネーターも務める黒井理恵さんの、計4名による、「こどもの育ちを真ん中に大人が協働するために大切なこと」というテーマのパネルディスカッションを実施しました。進行は、古屋教育長が務めました(以下、敬称略)。

大人も子どもも関係ない。人として向き合う重要性

下川町教育委員会

田村: 第6期の総合計画を作る過程の中で、教育の重要性を認識し、さらに、町民議論を経て、地域共育ビジョンを作ることになりました。その中でも、子どもを中心に据えたいという思いは出てきていました。ただ、行政の立場にいるとどうしても、与える側という感覚が強くなってしまうように感じます。世代的にも、当事者である子どもたちの意思や考えよりは大人が正解を提示するのが当たり前だったように思います。

でも先ほどのお話にもありましたが、大人は与えるのではなく支える立場として、いろんなことを進めなければならないと痛感します。と申しますのも、小中学生のまちづくり提言や高校生の議会モニターなどで、地域の課題を発表したり質問したりする機会がありまして。その内容や視点が、議会よりも厳しい意見や質問であることもありました。だから子どもたちの意見をきちんとに受け止めて、しっかり形にして応えるのが行政の役割だと改めて認識しています。

井内: 子どもだった頃に周りに影響されてきた部分も確かにあると思いますが、大人になれば誰しも「今の私は私の選択でできている」という意識があると思います。誰かの教育によって、今の自分のすべてが出来上がっているわけではない。ですが、子どもに対しては「子どもたちのこういう力を伸ばそう」とか、なぜか大人側の教育によって子どもが育つように捉えてしまう。でも僕は、0歳児も高齢の方も同じだと思っていて。人には自ら育つ力や、育ちたいという思いがあると思うんです。歩きたいから歩くし、おもしろそうだから手を伸ばして掴むし、その結果汚しちゃったり怪我しちゃったりする。けれど根源的には、育ちたい、学びたいという思いがある。その想いや力を信じて環境を整えるのが大人の役割だと思います。

麻生: 今のお話、今まで当たり前だと思っていたやり方を見直すきっかけになる話だと思います。というのも、下川町でも年間で目指す姿を設定したんですが、その際、みんなでどういう子どもを育てたいのか、目線を合わせる必要がありました。でも一方で、目指す姿を決めるのは、大人が理想の姿をあらかじめ決めて、それに向けて子どもたちを育てていくという発想に、どうしてもなってしまう。でも本当にそれでいいのか、井内さんに聞いてみたいです。 

下川町教育委員会

井内: 個人の考えとしてお答えすると、僕は年齢関係なく目の前の子どもたちも大人の方も尊重します。だから、僕も相手から尊重されたいと考えています。親と子どもの関係性も同じです。親が子どもの個性や意思だけを尊重するのではなく、親だからこそ子どもに「こうなってほしい」という思いはあって、その思いは尊重されるべきと思います。先生方だって「担任として、こういうクラスになってほしい」という思いはあるし、それは先生の押し付けではない。ただ、お互いを尊重すると合致しない思いも出てくる。だから時間がかかるけれど対話が大事なんです。

黒井: 私は今、名寄高校で地域学という授業を担当していて、毎週2単位(時間)、高校に行っていますが、高校生だから自分の考えもあるし、生徒たちの自主性と私の想いをどうやって尊重し合うのがいいのか難しさを感じていたところです。

それから、このパネルディスカッションのテーマでもある「子どもを真ん中に」という表現にも、さまざまな解釈があって、その違いによるコミュニケーションの齟齬が起きることも体感しました。私が考える「真ん中」の意味は、子どもの周りに先生や地域の大人たちがいて、見守ったり支えたりしているイメージです。でも、子どもを「自分の真ん中」に置いて話している人もいるんですよね。どちらも子どもを真ん中において大事にしているのですが、子どものいろんな側面を受けとめてみんなで見守る前者と、自分が見ている子どもの姿のみで「この子はこうするといい」と接する後者とでは、やっばり子どもとの関わり方も変わってきます。冒頭の田村町長のお話でも出てきましたが、大人同士でも解釈や世代の違いによって子どもに対する視点が違います。なので、名寄高校が統合・新設される際には、2年ほどかけて先生、生徒、地域の人、教育関係者と「名寄高校はどんな学びをして、どんな人材を育てていくのか」について対話を重ねました。

黒井理恵さん

対話に必要なのは未来への解像度

── 地域の大人たちとともに何度も話し合いを重ねてこられた安平町は、そういう意味ですごく先進的なのかなと思っていますが、目標設定やビジョンを共有する上で井内さんが工夫されてきたことはありますか?

井内: 教育と子育ては、大切にしたいことが抽象化されて語られがちです。「心の優しい子に育ってほしい」とか「自分で考えて行動できるようになってほしい」とか。ですから、何をすべきか具体的に理解できるように、解像度を上げることが重要です。

井内聖教育長

井内: どういうことかと言うと、例えば皆さん、自分にいとこが何人いるか思い浮かべてみてください。10人くらいの方もいれば、もっといる方もいるかもしれません。でも今の子どもたちのいとこの平均人数は、だいたい2〜3人。つまり、子育てやその他の暮らしにおいて、血縁を頼るのが難しいということでもあります。移住した家庭なら、地縁も少なく、さらに頼れる人が限られます。ご近所付き合いとかごみの出し方とか、暮らしていくために地域の人同士がコミュニケーションする必要があります。現在でもそのような状況なのに、これからさらに人口も減っていきます。どうなっていくのでしょうか。

AIの台頭で、アメリカでは水道配管工と電気技師の給与がプログラマーよりも高くなる現象が起きています。子どもたちも、先生に質問するよりAIに質問した方が早いし正確な答えが返ってくることもあると理解している。そういう時代を生きる子どもたちに何が必要なのかを考えようとすると、未来の解像度が上がっていきます。「心の優しい子」「主体性がある子」という視点も大切だけど、それだけでは生き抜けない社会になってきている。だからこそ、子どもたちを取り巻く社会を具体的に想像してみることが大切です。

黒井: 未来への解像度を上げると、地域で暮らしている人の暮らし方や生き方の解像度も上がりますよね。どういうふうにその地域で生きていけるようになったら幸せなのか、楽しいのかを考えることも、すごく大事だなと改めて思いました。

── 下川町に移住されて16年の麻生さんが感じる下川の変化や、それに伴う子どもたちへの関わり方の変化で、何か思い当たることはありますか?

麻生: 下川の子どもたちはどこへ行っても挨拶してくれるし、居住エリアがぎゅっと集まっている町だから、スーパーなど町中でたまたま会うこともあります。そういう近さがすごくいいなと思っていますね。あとは僕自身が森林環境教育や、下川の森と長く関わっているから特に感じるのかもしれませんが、森を子どもたちの育ちや学びにもっと活かせる余地があると思っています。

特に、下川だからこそ触れられる生のフィールドや体験は大きな価値です。先ほどのAIの話からも分かるように、様々な課題解決や技術はどんどんAIが担うようになるでしょう。でも五感を使うことは人間にしかできない。森には多様な動植物が息づいているし、もしかしたら危ない目に遭うかもしれない。そういう場所だからこそ、感じる力を磨いたり、コミュニケーションの重要性とか工夫を学ぶ機会になると思います。僕自身、森が持つ可能性をもっと子どもたちに拓いていきたいですね。

「好きにしていい」と言われても、動けない

黒井: コミュニケーションについては、私も名寄高校で地域学を教えている中で感じたことがあって。生徒たちは地域学の授業を選んだ理由として「コミュニケーション能力を身につけたいから」と話すんですが、それぐらいコミュニケーションをすることに対して恐れを抱いていることの表れのような気がして。人と人とが、しっかり関わり合う力をつけておかないと生きにくいなと本能的に感じ取ってるんだろうなと思います。

一方で、注意しなければならないと思うこともあります。高校生の言うコミュニケーション力が、空気を読むとか、波風立てずにうまくやる力という意味で使われていないかな、という点です。でも私は、相手を尊重して受け止めて、自分という輪郭をはっきりさせるための力がコミュニケーション力だと思うんです。

下川町教育委員会

井内: 黒井さんの今のお話、すごく分かります。その高校生が言うコミュニケーション力はつまり、SNSで炎上しない力だと思いますね。でも本来のコミュニケーション力は「あなたはあなた」「私は私」と受け入れる力だと思います。ただ「あなたはあなた」という姿勢が、必ずしも子どもたちを受け入れていることと同意ではない場合もあります。腫れ物に触るように、子どもを幼きもの、未熟なものとして接する大人もいる。そういう関わり方をされてしまうと、子どもたちが「受けれられている」と感じるのは難しいですよね。

実際に起きた出来事ですが、小学5年生向けに「自分に向き合って自分の好きなことをやってみよう」という総合学習の時間を設けました。そしたら授業開始後の10分間ほど、誰も動けなかったんです。しばらくして、一人が「本当に何をやってもいいの?」と聞いてきて、黒板に絵を描き始めました。そしたら他の子も続いて絵を描き出して。授業が終わった後、感想を聞いたら「怖かった」と。「学校の中で、好きにしていいよ、やりたいことやっていいよって言われたことがなかったし、やったことがないから分からなくて怖かった」という感想が出てきました。

地域はいかに遊べる場所を作れるか

麻生: 自分で決める経験があるかどうかが大事ですよね。特に小学校低学年までの子どもたちにとって言えば、自分の遊びたいように遊べる自由な空間があって、自分がやりたいことをやっていいと安心できる感覚がないと、なかなか自分で決める力は養いにくいと思うんです。そのような場が減ってきた背景には核家族が増えたり、子どもの数が減ったり構造的な要因もありますが、だからこそ行政の役割も重要だと思います。ただ行政でカバーしようとすると、管理型になって「あれはダメ」「これは禁止」という空間になりがちです。もちろん、すべての施設がそうだと言うわけではないですが、子どもたちが自分で今日何をしたいかを考え、実際に自由に遊べる空間を地域側がしっかり用意しておくことが、子どもたちが自分の将来ややりたいことを考える力の素地になると思います。自分で決める力のルーツは、遊びにあるのかもしれません。

── 町長は今の麻生さんのお話を受けて、行政がサポートできるアイディアや考えていらっしゃることはありますか。

田村: おっしゃる通り、行政が主導になると法律や規定を守ることを重視して、結果的に使いづらいものが出来上がってしまいがちです。でもこういう時代ですから、新たな箱物を作るよりは、すでにある公共施設の空いた時間や空間を、どんどん地域の皆さんに自由に使っていただけるようハードルを下げることが、まず行政としてできることかなと思います。行政が設定した枠にはめず、住民の皆さんの意思や思いが形になるような場所を作っていきたいですね。

── 井内さんは下川町に初めて来られたとのことですが、昨日と今日滞在されて、下川町へのエールを送るとしたら、どんなメッセージをいただけますか。

井内: 昨日来てから、ずっと感動しています。住民の皆さんにとっては当たり前だと思いますが、どこに行っても森や木材で作られた物があるんですよ。学校が木の内装だったり、小学校には樹齢 800年を超えているハルニレもあり、役場の方の名刺も木でできていたり。スキージャンプの台も、歩いて行ける距離にある。それに地域共育に熱心に取り組まれている方が、(フォーラム会場に)これだけいる。将来どんなふうになっていくのか、本当にワクワクする町です。