下川町地域共育ビジョン-子どもが誰ひとり取り残されず、全体が大きな家のような教育のまち-

【開催報告】2/12~14 しもかわ地域共育ツアー

2024/03/12実施報告

可能性しかない『しもかわの地域共育』を紐解く3日間


人口が3000人ほどのまち、下川町。
小さなまちだからこそできる、共育のタネがあらゆるところにまかれています。

そんなタネがどこにまかれているかを見つけに道内をはじめ、遠方は福島、長野と道外から4人の参加者が集まりました。

地域共育の現場を巡るツアーが新たにはじまる

2019年に下川町の地域共育ビジョンが策定され、目標の2030年までちょうど中間地点。しもかわ地域共育フォーラムの開催と共に、地域共育の実践の現場を巡るツアーの開催が決まりました。この度、教育委員会からの依頼を受け、ツアーアテンドを務めた、認定こども園の保護者代表であり、ぐるっとしもかわの大石がその様子をお伝えします。

全体が大きな家のような共育のまちを目指して

ツアー初日。
世界各国を旅したマスターが営むモレーナでのランチオリエンテーションからスタート。
自己紹介やツアーへの参加動機などをそれぞれお話いただきながら、カレーをぺろり。意外な共通点があったりと話が尽きることはありませんでした。お腹も満たし、いざフォーラムへ。


初開催のフォーラムには、老若男女約80名の参加者が集まりました。文部科学省の長田調査官による基調講演、4つの事例紹介、パネルディスカッション、ワークショップと盛りだくさんであったため、学び深まるあっという間の3時間でした。

(フォーラムの詳細はこちらより)

同じグループで話合いをしたツアー参加者からは、「下川の地域共育の取組が子どもたちの姿からも見えてきたり、実際に登壇した高校の課題研究の取組を当事者である高校生から聞けたりしただけで下川に来てよかったとすでに感じています。」と話してくれました。

フォーラム全体を通して、「子どもたちそれぞれの道のりには、地域の皆さんひとりひとりの存在が大切」、「大人たちの一生懸命な姿を見せ続けていくことが必要不可欠」、「下川町ならではの風土を最大限に生かし、地域の想いを紡ぎ、時には語り合い、大きな家のように安心して過ごせるまちであり続けることが今後も目指すべき姿である」と再認識できました。


フォーラム終了後は、懇親会へ。会場は、40年以上下川町民に愛され続けるコーヒーと洋食「アポロ」。店内に入るとレトロな雰囲気に包まれ、心地よい時間が流れるそんなお店です。また、メニューも豊富であるため、世代を超えていろんな方が愉しまれている様子をよく見かけます。今回は、特別なメニューをバイキング形式で準備いただきました。

会が始まるとインプットしてきたことが溢れ出るように、おしゃべりがはじまります。それぞれの地域での取組や課題、下川ではなぜ成功できたかなど、現場ならではのリアルなお話もノンストップであっという間にお時間になってしまいました。


小学校や中学校、しもかわで行われている実際の教育現場へ潜入

心がほっこりする学校現場

小学校の中に入ってみると、すぐに驚きがありました。木材があらゆるところに使われているため、温かく包み込まれるような空気感、そして落ち着いて学べる環境、まさに森林のまちということを校舎からも存分に感じていました。

教室におじゃますると、純粋で素直な子どもたちの姿がどのクラスに入っても目に留まります。中でも、5年生の国語の授業では、町民の方が描かれたマンガを題材に授業が展開されています。前の授業では、実際に漫画家の方に来てもらい、意図的な表現方法の工夫を直接お聞きし、実感をともなった学びが継続していることにも驚かされます。授業からも開かれた学校であり、連携している様子が垣間見れました。

小学校から中学校へ。中学校も小学校同様に、木材がふんだんに使われていることはもちろん、木質バイオマスボイラーによる地域熱供給により、校舎内が快適な温度に保たれていることにも感心されている様子でした。地域資源を最大限に生かすまちの取組を生徒も先生も体感できていることがこのまちで暮らす根っこの部分で支えになっているのかもしれません。

中学校では、1年生の総合的な学習の授業を参観。授業では、25歳の自分になりきって「モノ」、「生活」、「人」、「下川との関わり」について整理したシートをもとに各々が発表。友達との対話やフィードバックから未来の目標となる自分の未来キャッチフレーズを考えるという授業でした。子どもたちの対話を聞いているとお互いのことがよくわかっており、ポジティブに認め合える姿が多く見られました。授業後、参観した皆さんが関心を寄せたポイントでもありました。下川町の子どもたちは優しい生徒が多く、ほっとするクラスづくりが行われていることがよくわかります。

森林環境教育の入り口でもある美桑が丘へ

森林環境教育のフィールドでもある美桑が丘へ。ここでは、教育委員会の和田さんにご案内いただきました。「元々、ここは人が入れるような場所ではなかったんです。」美桑が丘は、下川町が取得した土地を、NPO法人森の生活が地域を巻き込み、町内のあらゆる方が集える森にしていこうと対話を重ね、一歩ずつみんなのやりたいことがカタチとなってきた森の拠点です。参加者からも、「自分の地域にこんな手作りの場所あったらいいな。」、「森ジャムの時に来たことがあるんです。手づくりであり、自然に溶け込んでいるイベントには驚かされたことを今でも覚えています。」と、美桑が丘の今もこれまでの過程についてもお褒めの言葉をいただきました。


地域教育を支える人々に会いに行こう

子どもたちとの多方面での関わり合いから見える共育の姿

子どもたちと多種多様な関わりのある小峰博之さんに会いに行きます。下川町の子どもたちで知らない人はいないと言っても過言ではありません。小峰さんと子どもたちとの関わりは、クラブ活動・職場体験・授業など、様々です。新聞記者もされているので、行事や特別な予定があった時には学校に駆けつけてくれます。そのため、小峰さんと子どもたちとの関わりは数え切れないほど多くあります。

今回は、子どもたちとの今までの関わりをお聞きしながら、自然体験クラブや職場体験で実際に体験したことを参加者の皆さんにも体感してもらいました。小峰さんの暮らしには欠かせないどさんこのハナちゃん。馬との共生や自給自足の暮らしなど、小峰さんを知ることからはじまります。


ハナちゃんとの挨拶を終え、いざ乗馬体験。初めての方もいらっしゃいましたが、視界が高くなり、背筋も伸び気持ちよさそうです。子どもたち同様、裸馬にチャレンジしてみると、あったかくて気持ちいいと全身で感じていました。


小峰さんが子どもたちとの体験で特に力を入れているのが、調馬索や引き馬の体験です。お手本を見せてもらい、いざ順番に体験。なかなか思うように意思を伝えることができず、苦戦する参加者の皆さん。各々のタイミングに合わせ、小峰さんから意思を伝えるアドバイスをもらいます。
「馬に気持ちを伝える時は、本気で。」


小峰さんのお手本を参加者全員でよく見ると、表情の変化や意思の伝え方の強弱やタイミングに気づかされます。小峰さんからも、「子どもたちも、この体験を通して、伝えることの難しさはもちろん、どうしたら伝わるのか考えるきっかけになっているのではないかな。」と小峰さんは言います。小峰さんの大人の本気、一生懸命な姿を見た子どもたちを想像しても、学校では教えられない多くの学びがここにあることがわかります。また、ハナちゃんとの関わりは、子どもたちだけでなく、地域で暮らすお年寄りのところへ訪問したり、草刈りや森の整備まで幅広く活動されていることなど、小峰さんの生き方から学ぶことが多くあります。だからこそ、小峰さんのお話を聞いた子どもたちには、変化があるのかもしれません。

受け入れからはじまる共育の輪

小峰さんとお別れをし、職場体験からはじまった縁を紡いでくれた、ゆきみち書房の富永宰子さんに会いに行きます。お店に入ってみると、タイムスリップをしたような不思議な感覚に包まれます。そんな素敵な場所をお借りし、質問形式でお話を伺いました。

職場体験を受け入れるまでのプロセスのお話の中で、「地域学校協働コーディネーターの本間さんのきめ細かい調整のおかげで安心して受け入れに臨めています。」と、宰子さん。また、実際に受け入れた時のお話では、中学生のことを「1人のデザイナー」として受け入れている宰子さんのスタンスにも感心させられます。職場体験からはじまり、仕事の依頼、そして商品化まで実現されていることから、共育の考え方、そしてそこからの輪が広がっていきそうな予感までしてしまう、そんな時間となりました。

キャプション:中学生が描き上げ商品化までされたポストカード

地域と保護者とともに共創する認定子ども園

宰子さんとお別れをし、森林環境教育のはじまり、森のあそびがスタートする認定子ども園「こどものもり」を訪問します。園長を務める古屋いづみ先生にご案内いただきました。


園に入ってそのまま進むと、どこまでが園庭かもわからない広さに圧倒されます。
クラスを周る中でも、子どもたちの成長に寄り添う園舎にも驚かされていました。
訪問された方には必ずお話することがあるんです、と古屋園長。「保護者の会と園との共同企画で、運動会のメダルを保護者の方に作っていただきました。ですよね、大石会長。」
保護者の会として、下川町だからできることを子どもたちに体験してもらいたいという思いから、今回の取組になりました。「雪の重みで倒木してしまった白樺を活用し、お迎えの時にノコギリで輪切りにしてもらいます。そして、保護者の方に作成いただいた各クラスのスタンプを押し、裏にはお子さんへのメッセージを書いてもらい、世界に一つしかないメダルができたんです。そして、閉会式の中でサプライズプレゼント。」と自ら熱く語ってしまいました。
地域と保護者とともに共創しはじめた取組は、森のあそびとともに自慢できる取組のひとつです。

皆さんの疑問にお答えします

公民館へ戻り、これまでの2日間、下川町の共育について見聞きしたことに対しての疑問を、この場で一気にお聞きできる参加者にとっては待ってましたという時間でした。
参加者からは、ビジョンづくりができるまでのプロセスや関わっている方へのお金の回りや予算・特別なもの、道立の高校との関係づくり、SDGsそのものの教育についての疑問が出され、本間さんや和田さんから回答いただきました。実践者同士だから話せる、話したい、聞きたい、聞いてみたいそんな時間となりました。

森林環境教育のこれまでとこれから

ツアーも最終日。森の生活から代表の麻生翼さんと長尾綾さんにお越しいただきました。麻生さんからは、これまでの森林環境教育についての変遷や実践者だから話せるリアルな話を質疑応答形式でお聞きしました。中でも、森林環境教育の手応えや成果について話題になりました。
「小学校では、年に1度しか授業できないからこそ、子どもたちの記憶に残る体験を提供した。」と語った麻生さんの熱い思いは、参加者の心にも響きました。
また、「成果として目に見えることばかりではないが、森を大切にしようという感覚は子どもたちみんなの中にある。」と感じられていることからも、努力し続けてきたからこその変化があるのかもしれません。


長尾さんからは、子どもたちの臨場感あふれる様子を写真を交えてお話いただきました。「森のあそび」で焚き火をした時は、自然と焚き火の歌を口ずさむ子どもたちの姿や落ち葉温泉をつくったり、シャワーを浴びたりと大人では考えつかないような遊びを作ってしまう子どもたちの姿が印象に残りました。


ツアーを終えて見えてきたしもかわの地域共育の魅力とは?


最後にツアー参加者をはじめ、運営メンバー全員で振り返りをしました。
皆さんの中に見えてきたしもかわの地域共育の魅力とは?ツアー参加者それぞれからお答えをもらいました。

「咀嚼されたSDGs」

下川版のSDGsがとりまとめられていたり、子どもたちがわかる表現で学校に掲示されていたりと、SDGsが町全体で咀嚼されていて、日常に浸透しているなぁと感じました。
地域共育・キャリア教育については、下川版SDGsの目標7と関連するものと整理されており、合意形成のもとで地域が一体となって取り組めていることがスゴいと思います。(パブコメの3割が教育関係と関心も高い。)
下川町には、独自の挑戦を続けている、いい意味で多様な変人が多いが、地域のみんなに受け入れられています。SDGsで述べられている「多様性と受容性」が体現された町だと感じる。そんな大人たちの背中を見られるのは、子どもたちのキャリア教育にとって大きな意義があると感じました。


生徒の姿で感じたしもかわの共育の質
 
中1の生徒たちの発言を聞いているだけでも、本当に温かい。使っている言葉が柔らかいし、生徒同士の会話も優しい印象を受けました。あぁいうやりとりができることには、驚くしかありません。また感銘も受けました。子どもの育ちは、大人の姿勢に関わっていると思うので、大人の思いも集約されているように感じました。


「ソフトづくりからはじめる共育」

「まず森にみんなで入って、なんとなくここで焚き火をよくやるから、薪置き場を設置しよう」森の生活さんの町民主体のコミュニティづくりが印象的でした。
「ソフトが先行で、あとからハードがついてくる」という言葉は、森林環境教育だけでなく、地域の人も巻き込んだビジョンづくりを進めている下川の共育も同じだなと感じます。
また、職場体験の事例では、ゆきみち書房さんが中2を1日受け入れた際、中学生として見るのではなく1人のデザイナーとして認め、関わり合っている様子に感心させられました。

これまで、正直職場体験は1日程度のイベントくらいにしか思っていませんでしたが、中学1年かけてMirai's Noteという下川オリジナル教材をつかい「自分の好き」を深め、お互いに承認しあう関係性づくりがあるからこそ、たった1日の職場体験が、その子と地域にとっても本当に意味のあるものになるのだと実感しました。

それは、1〜2回の授業の結果ではなく、その子の興味関心と地域の特性を結び付けながら、子どもを中心にじっくり小学生から一貫して高校までつないでいくバトンのようなもので、同じ小さい町として希望を感じる貴重な研修となりました。

「語りたい共育」
主語が違った。町民自身が自慢したい共育がしもかわにはあると感じました。1人ではなく、関わる大人みんなが語る。その姿を見た子どもたち自身も、いつかは大人たちのように語りたい。そんな子どもたちが地域で育ってきていると思います。3日間を通じて、一人一人が主役のまちづくりを肌で感じました。


3日間を通して、参加者とともに、地域教育について改めて考えるきっかけになったこと、実際に関わる地域の大人をはじめ、子どもたちや先生たちとの触れ合いや関わりが今後の下川町の共育の発展にも寄与していくツアーとなりました。