地域共育に関わる多様な取り組みを
インタビュー形式で紹介します。
地域の大人を動かし新商品を生み出した、とある高校生の物語
北海道下川商業高等学校(以下、下商)で、毎年行われている課題研究。在学中の3年間で学んだことの集大成として、自分の興味・関心のあることや地域の課題を、町内の方々の協力を得ながら深め、アイディアを実践し、発表する授業です。
今年度(2025年度)3年生の発表は、全部で10名(生徒数は25名、うち選抜された生徒のみ登壇)。その中の一人・蠣崎優菜さんは、下川町産の素材を使った商品開発を提案。地域で暮らす様々な人たちとの対話を経て、オリジナル商品「いちごミルクパウンドケーキ」を開発・販売しました。
「自分だからできること×地域に貢献できること」を探して
蠣崎さんの「いちごミルクパウンドケーキ」を作りたいという思いは、下川町内での取り組みへの気づきが発端で、人のつながりに導かれ、形になっていきました。
きっかけは、毎年行われている経済交流大使事業。課題研究の授業とは別に、下川町とつながりがある企業へ下商生が就業体験や役員訪問を行う取り組みです。蠣崎さんは、その一環で戸田建設を訪問。下川町内の一の橋地区で戸田建設が「なついちご」*1を栽培・販売していることを知りました。さらに「下川町のなついちご SUMMER STRAWBERRY JAM COOKIE」*2 というお菓子がきっかけで、地域の素材を使ったお菓子が作れないかと思い立ちます。
*1: https://shimokawa-ichigo.com/
*2: https://www.toda.co.jp/news/2025/20250626_006080.html

自分の強みを活かしながら、今まで存在しなかった新しいものを生み出したい。自分だからできることに挑戦したい。また、それらが自己満足ではなく下川町のプロモーションや食品ロスの削減に繋げられたら……。
そんな思いで、アイディアを練り始めた蠣崎さん。まずは一の橋でいちごの育成を担う三浦玄太さんに、規格外のいちごを使った商品開発ができないか、相談に行きました。
その後、下川町で養鶏場を営む株式会社あべ養鶏場の社長・村上範英さん、さらに名寄市で飲食店を営む株式会社アグリフーディズムの代表・須藤民篤さんなど、次々と地域の産業を担うプレイヤーたちが集合。





時には思い通りにいかない場面に直面しつつ、何度も試作やイベントでの販売とフィードバックを繰り返し「いちごミルクパウンドケーキ」が完成しました。
蠣崎さんの課題研究発表は、北海道教育委員会が主催する、Ezo 探究プロジェクト*3の上川管内の予選で第1位となり、全道大会へ進出することに。
その評価ポイントは、パウンドケーキそのものからラベル、商品の背景を説明したポップの書き方まで、蠣崎さんが何度も周りの意見を聞いて改善を重ねた粘り強さと、原価率を念頭に置いた商品作りのプロセスにありました。


地域の人々を巻き込んで、新しい取り組みを実践するのは、一見魅力的で簡単そうに聞こえます。しかし、実際はていねいな調整や意見交換が不可欠。
町内を走り回って初めての商品開発に挑戦した蠣崎さんと、彼女を応援・協力する地域の方々にプロジェクトの背景や今後の野望(!)を伺います。
登場する人
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- 戸田建設株式会社 新技術 事業化推進部 主管2級
- 三浦玄太(左)
- 北海道下川商業高等学校3年生
- 蠣崎優菜(左から2番目)
- 株式会社あべ養鶏場 代表取締役社長
- 村上範英(右から2番目)
- 株式会社アグリフーディズム 代表取締役
- 須藤民篤(右)
最初はタルトを作りたかった。でも……
須藤: 最初は、タルトを作ろうと提案をしてくれましたよね。
蠣崎: はい。
須藤: 僕は学生さんからの提案になるべく寄り添いたいとは思いつつ、商品として広がりがある方がいいと思ってパウンドケーキへ変更した方がいいと言ってしまったんだけど……変更することについては、当時どう感じましたか?
蠣崎: タルトを思いついた時は、下川町産の小麦やたまご、いちごが使えるから「すごいアイディアだ!」と思ったんです。でも須藤さんからいちごの使いやすさや、タルトだと崩れやすいこと、専用の型が必要なことなどプロの視点の意見を聞いて、パウンドケーキに変更してよかったと思っています。
下川町を知ってもらうことが、この商品開発の目的の一つでもあったので、広く流通しやすいお菓子を作る必要があると考えると、タルトよりパウンドケーキの方が(目的に)合っていたと思います。
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須藤: そうですね、買う人が商品としてイメージしやすいのもパウンドケーキの強みだと思います。
村上: 学生のプロジェクトに協力する際は利益度外視になることもあるけど、それでは本人にとっても協力する僕らにとっても良くない。だから、商品を作る以上、しっかり利益を出さなくちゃいけない。それを考慮してコストを全部洗い出して値段設定しようという話はしましたね。
須藤: 今後も売り続けていくために、コストを抑えたり販売効率を上げたりする工夫はしていく予定です。
三浦: 一番最初にこの話を蠣崎さんから聞いた時は、例えば空港に置けるような、手軽に買える下川町のお土産品として機能するものを作りたいということは伝えていました。(蠣崎さんが)頑張って作ったラベル、もう3,000枚印刷したよ。こちらは、今後もそれくらい販売するつもりでいます。
悔し涙を乗り越えて
── 蠣崎さんの商品プロデューサーとしての働きぶりは、いかがでしたか?
村上: 僕らプロジェクトチームで連絡を取り合っていたグループチャット内で、まず最初に伝えたことはスケジュール設定しようということ。仕事の進め方として、いつまでに商品を作りたいのか予定を立ててから、意見や確認を取る必要があります。
蠣崎さんは、僕がそのように伝えたら、すぐに「この日までに意見をいただけますか」と連絡をくれるようになったので、調整能力がしっかりある子なんだなと感じました。一番最初に打ち合わせしたとき、泣いちゃったけど、すぐ企画や予定を練り直したんだよね?
蠣崎: 泣いちゃったのは思い通りにいかなくて、できない自分に対して悔しかったからです。もともと負けず嫌いな性格だから、なんとしてでもアイディアを形にしたいと思い、がんばりました。
村上: 僕ら大人が裏で動いて助けたり調整したりすることもできるけど、高校生だし、周りが根回しするのは意味がないと思って。泣いても踏ん張って自分でスケジュールを調整していたから、こちらにも本気な姿勢が伝わりましたよ。
三浦: 地域の、それぞれの領域のプロたちと企画をするのは、どうでしたか?
蠣崎: 最初は、怖かったです。皆さんのことが怖いという意味ではなくて、自分対地域の人たちという形で物事を進めるのが初めてだったので。でも、自分が決めたことを熱意を持って行動すれば、周りの人がちゃんと見ていて、応えてくれるんだと分かって自信につながりました。
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── 蠣崎さん自身は、今回の課題研究を経て自分自身の変化を感じることはありますか?
蠣崎: 最初は、ただ商品を作れればそれで良いと思っていました。でも実際に、いろんな人たちに試食をしてもらったり、商品を置かせてもらったりして、買う人の立場でどんな商品なら欲しくなるのか、考えられるようになったなと思います。
村上: マーケティングやブランディングの視点ですよね、商品開発の一番おもしろいところだと思う。
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三浦: 僕としては「なついちご」のPRというよりは、下川町という地域を知ってもらうための商品作りだと認識しています。この取り組みを通じて、地域はもちろん下川商業高校自体の認知度も上がったらいいなって。来年の下商の販売実習でも下川町の特産品として出品されるんですよね?
先生: はい、そのつもりです。
蠣崎: 自分が作ったものが、ここまでいろんな話に広がるとは想像していなかったです。でも、一生懸命やった自分を褒めたいし、周りの地域の人たちにも改めて感謝したいです。
